本研究は、6-8世紀の東アジアにおける仏教美術(中国の南北朝後期〜隋唐時代、韓国の統一新羅時代、日本の奈良時代の彫刻・絵画を主な対象とする)の図像・構成原理・機能等に関わる諸問題を、当時の仏教界の中核を担い、中・韓・日三国にまたがって展開した『華厳経』関係の教学、及び関連する宗教的実践に注目して、包括的な解明をめざすものである。 初年度は当該テーマに関連する写真資料・文献資料の収集、及びその整理と体系化に努めるとともに、主要作品の図像解読を中心とする研究を進めた。特に奈良時代の『華厳経』関連の仏教図像を代表する作品である東大寺大仏蓮弁線刻図と同・二月堂本尊光背に関しては、従来の研究を塗り替える画期的な知見が数多く得られたため、12月4日に東京大学東洋文化研究所(第52回東文研セミナー)、12月13日に京都大学文学部(第2回京都美学美術史学会大会)において、その成果に基づく研究発表を行った。この発表原稿を土台に、大幅な加筆訂正を加えて「東大寺二月堂本尊光背図像考-大仏蓮弁線刻図を参照して」と題する長編の論文を完成させ、奈良国立博物館研究紀要『鹿園雑集』第六号に発表した(印刷中)。 また11月には米国サンフランシスコ・アジア美術館に赴き、同館にて開催された「高麗美術展」の出陳作品(特に高麗仏画)の調査を行った。高麗仏画には東アジアにおける華厳美術の最も発達した形態がみられるだけでなく、本研究が対象とする6-8世紀の作品の図像解釈や制作背景の解明を行う上で手掛りとなる重要な情報が大量に含まれている。この調査成果の一端は本年刊行予定の『国華』高麗美術特集号に、『万五千仏図』(広島・不動院蔵)の作品研究として発表する(執筆中)。
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