本研究は、読者、及び読書についての研究を歴史的に検討しつつ、その可能性をとらえ、また、それらの知見に基づいた表現と読者の歴史的な調査、研究を展開することをねらいとしている。 特に本年度は、読書研究をあらたに展開させるための方法を具体的な成果を交えて提示することに力点をおいた。その方法とは、読書を、空間的なひろがりの中でとらえる方法である。どこで、誰が、どのように書物や情報に接するか、書物はどのようにして広がり、流通してゆくのか、という観点から表現史をとらえることで、新たな知見を見いだしてゆく試みである。 具体的には、近代登山や山岳イメージに関わる情報が、どのようなメディアによって、どのように広がっていったのか、という歴史的な分析として、また、博覧会や都市イメージに関わる情報が、同じくどのように広がり、受容されていたのか、といった分析として実践し、それらを論文として公表した。こうした方法により、単に中央からばかりではなく、各地域を視野にいれた空間的な広がりの中で、近代の読書について研究する可能性を提示できた。あわせて、地域の出版や読書の実態についてうかがうことのできる資料の発見や保存の支援活動を行った。 また、当初予定していた日本文学領域以外の読書論関係文献のデータベースの段階的な公開については、年度内の公開にまでは至らなかったが、その土台となる収集と整理作業の拡充を継続的に行った。
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