前年度に引き続き、国内外の図書館・文学館・美術館において前衛文学・芸術と記録文学についての資料収集を行い、当時の関係者へのインタビューも行う一方、安部公房を中心とする前衛文学や戦後の政治・芸術運動に関する事実の整理を行った。 「<夜の会><世紀の会><綜合文化協会>活動年表」は、戦後の文学・芸術運動の中で伝説と化している<夜の会>、その若手分派とされてきた<世紀の会>、そして雑誌『綜合文化』の名前によってのみ記憶されている<綜合文化協会>の活動について、当時の関係者の回想・記録と一次資料とを年代順に再構成した年表である。細かな事実も拾い、複数の証言の整合・矛盾を照らし合わせながら年表形式にまとめることで、不分明だった戦後初期の芸術運動のあり様をかなり復元することができた。 「『人民文学』総目次」は、1950年11月〜1953年12月に日本の人民文学社から発行された雑誌『人民文学』の総目次であり、末尾に人名・団体名索引を付している。前の年表に続く、安部公房が急速に政治的になったと言われる時期の一つの拠点となった雑誌であり、共産党の分裂と呼応した点で文学史的にも著名な雑誌であるが、今までその全貌が明らかでなかった。この総目次は、この時期の文学・政治について研究するための基礎とすることができよう。 それぞれ、発表後に判明した資料や、誌面の都合上載せきれなかった部分があるので、来年度にはホームページを開設し、増補版を掲載する予定である。
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