著書『沖縄文学という企て-葛藤する言語・身体・記憶』(インパクト出版会)を出版できたことは、現在の研究を広く世に問う事ができたという点において、重要な研究実績となった。この本の出版によって、これまでの日本近現代文学研究で深められることのなかった戦後沖縄文学の多様な可能性を、特に「占領」「ジェンダー」「言語的葛藤」といった視点から掘り下げて考察することができた。その成果は、多くの新聞・雑誌・テレビ等の各メディアで取り上げられ、沖縄文学研究のみならず、沖縄文化研究全般にわたる思想史的考察に新しい展開をもたらすものとして多くの識者から高い評価を受けた。加えて、論文「岡本恵徳序論-「富村順一 沖縄民衆の怨念」論における法への喚問」では、戦後沖縄文学の代表的批評家である岡本恵徳を初めて本格的に考察し、「日本復帰」前後の沖縄文学と法の関係について新しい認識を開示できた。また、論文「奪われた声の行方-「従軍慰安婦」から70年代沖縄文学を読み返す」においては、戦後沖縄文学における戦時性暴力の表象の問題に新しい研究展開をもらたすことができた。また、米軍占領下における戦後沖縄の「主体」認識の問題、更には、多言語的混成性の問題についても、「米軍占領下の沖縄文学-「異文化接触」という隠蔽に抗って」「沖縄文学の現在-「他者の言葉」で/を書く」の2論文においてその研究の端緒を発表できた。現在進行中の戦後沖縄文学関連資料の収集や聞き取り調査、そのデータベース化を今後とも充実させていきたい。その研究を通じて、来年度においても充実した成果を発表すべく科学研究費を活用しつつさらなる研究に邁進したい。
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