本年度は資料調査と収集資料の分析を研究の中心に据えた。調査の方では東北大学狩野文庫、国立国会図書館などへ足を運んだ。前者の調査は、近世の図書における「仕入印」の記録から江戸と上方との当時の流通のあり方を把握しようという目的があったが、結果的にこの方法はあまり効果的でなかった。というのも、「仕入印」が記載される資料が稀少である上、記載されていたとしても、その記録から流通過程を追うことの難しさが判明したからである。ただ、これは一見無駄な調査であるように思えるが、翻ってみれば1年目の早い段階で軌道修正することができ、逆説的ながら大変重要な意味を持った。この調査を踏まえ、本年度後半は『名目集』という資料の分析に時間を費やし、またその成果を踏まえ国会図書館へ調査に赴いた。詳細は煩雑になるので略すが、研究成果としては「中本型読本」と呼ばれる書物群のより厳密な史的展開を把握することができ、また作品の内容的にもいくつか新しい発見があった。2年目以降に複数の論文として結実する予定である。本年度は細かな軌道修正を見ながら、結果としては計画通り進めることができた。
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