和歌史的に見て重要度が高いと判断されながらも、従来の研究からは見落とされてきた上方の地下(じげ)二条派歌人のうち、金勝慶安(こんぜけいあん)・水田長隣(みずたちょうりん)・井上友貞(いのうえゆうてい)らについて、略年譜を作成し、それをデータベース化した。また、長隣がその編纂に関与した詞華集『往来松詩歌』(ゆききのまつしいか)を、翻印・解題して刊行した(富加町文化財調査報告書第26号、2006年3月)。 具体的には、京都大学・岐阜県富加町郷土資料館ほか、関係文献(自筆本・写本・刊本)を所蔵する各所において調査を行い、それぞれ資料1点ごとに詳細な書誌データを採るとともに、鋭意関連資料の収集を行って複写資料の蓄積に努めた。また、伝記研究上重要な意味を持つ墓碑調査や、古書肆もしくは後裔宅での自筆資料(懐紙・短冊ほか)の探索、折々の資料展観での情報収集、それから明治大正期に刊行された雑誌文献の複写収集も、可能な限り実施した。 ついで、収集した諸資料を解読し、分類し、さらに編年体に改編して、略年譜を作成した。現段階では未見の書物や遺漏もかなりあるけれども、ひとまずは、各歌人の活動を同時代の流れの中で定位し、新しい和歌史的展望を獲得するための基盤を整備するという所期の目的は達成し得たと考えている。 今後は、なお引き続き年譜の増補改訂に努めつつ、他方、収集済み資料、特に和歌や歌論作品の丁寧な分析を通して、彼らの表現の深層にもメスを入れることを心掛けたい。
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