昨年度までに、王立協会前後のさまざまな基礎的なテクストの検討、および科学思想の3つのネットワークすなわち、時間的ネットワーク、空間的ネットワーク、仮想ネットワークの検討を行った。本年度は、これまでの成果を踏まえた上で、以下の3点の作業を行った。 1.多様な関係性の具体的な歴史化 従来の研究で「多様な」文学と科学の関係性があるとの指摘に終わっていた点を、より具体的に、17世紀後半という政治・文化・経済的状況において、出版文化の関わり(売れるテクストの生産)、科学言説と政治言説の絡み合い(科学言説の所有を巡る争い)、疑似科学言説の誕生(科学の数学化とその対抗運動としての博物学)という観点から整理を行った。 2.ジャンルの変容 文学と科学が出会うことによって、原小説形式が、「本当らしさ」の形式という観点から登場したことを明らかにした。しかしながら、それは同時に、別の空想の広がりを許容するジャンルを生み出すことになっていたことが分かった。とりわけ、科学言説=本当らしさ=小説の誕生という単純な図式を批判的に検討した。 3.ユートピア思想の変容 17世紀後半に、ユートピア言説はひとつの区切りがつく。それまでの理想国家の青写真という形式では限界が生じて、諷刺の要素を取り込んで、さらには、異国性を新たに登場した散文形式を用いて描く、18世紀に花開く新たなユートピア形式の基盤がこの時代に整えられることになったことが明らかとなった。
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