1.20世紀初頭のロシア知識人たちが哲学的立場や活動領域の相違を超えて共有していた問題意識の解明を試みた。当時の思想家たち(マルクス主義者、新カント派的観念論者、宗教哲学者、象徴主義詩人たち)が総じて、西欧近代的世界観の破綻という危機意識を抱き、近代を超克する新たなる世界観の構築を模索していたこと、さらにその際の西欧近代批判の視角の持つ共通点(実証主義、進歩の理論、科学的合理主義、経済的決定論、機械論的宇宙論、主客二元論、唯物論-観念論対立等々の否定)が明確なものとなった。 2.また、1.の視点から20世紀初頭ロシアのマルクス主義者たちの思想(とりわけボグダーノフを通じたボリシェヴィズム、ブルガーコフを通じた「道標派」)を再検討することによって、当時のロシア思想においてマルクス主義が果たした役割と機能について、新たな側面を提示した。マルクス主義者たちも1.で指摘した問題意識を持っており、マルクスの思想が新しい世界観の手掛かりとしての機能を果たしていたことを指摘した。これと関連して、さらに以下の3点を成果として挙げることができる。 2-a.ロシア・マルクス主義者たちのマルクス解釈を再検討し、旧来の「ロシア・マルクス主義」理解とは異なるその思想的側面を指摘した。 2-b.ボリシェヴィキにおける哲学論争を、1.を背景とした新しい哲学の構築をめぐる論争としてとらえなおした。 2-c.「道標派」のブルガーコフが、1910年代においても新しい世界観の手掛かりとしてマルクスに着目していた点を指摘した。これは、従来の「道標派」理解(世紀初頭におけるマルクス主義からの「転換」)に修正を迫るものである。
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