本年度では、主に研究課題に関し、(1)レスリー・マーモン・シルコウの出身部族であるアメリカ南西部のプエブロ・インディアンに関する資料を収集するとともに、(2)アメリカ文化における「異文化的対話」について考察する、という2つの方向性から概観的研究を進めた。まず、2003年9月、レスリー・マーモン・シルコウの小説『儀式』の舞台であり、シルコウの出身部族であるプエブロ族先住民文化のあるアメリカ南西部のニューメキシコ州とアリゾナ州へ行き、アメリカ南西部の先住民文化に関する資料収集を行った。プエブロインディアンセンター所属の歴史研究者であるJoe.E.Sandoによれば、リオ・グランデ流域に点在する19のプエブロ部族は、Pueblo Nationsとして、それぞれ独自の自治共同体を形成している。また、リオ・グランデ以北は、旧メキシコ領であることから、言語や文化の面でもアメリカ合衆国と根強く残るメキシコの影響の挟間で異文化的対話を迫られてきたという歴史をもっている。そうしたチカノ文化の意識も内包しつつ、シルコウの文学があえてアメリカ文学としての位置を目指すのはなぜかという新たな疑問も生まれた。また、メキシコ、キューバ、プエルトリコに視座を変えてアメリカ文化を考察すると、アメリカ南西部の先住民文化(プエブロ文化)がメキシコとの地理気候的条件により国境を越えて連続していること以外にも、アメリカ経済からの影響を直接受けているメキシコやプエルトリコ、そして政治イデオロギーによってアメリカ経済からの影響を逃れようとするキューバなど、アメリカの多文化性は、グローバル化するアメリカ資本と経済システムとも絡んで発生していることが確認できた。
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