本研究の2年目に当たる今年度も、レスリー・マーモン・シルコウの出身地であるアメリカ南西部一帯のアメリカ先住民文化に関する資料収集とその講読を行い、理解に努めた。アメリカ先住民(Native American)と言っても、アメリカ全土には多様な部族文化がそれぞれの風土に根ざして存在している。特に、アメリカ南西部のプエブロ・インディアンと呼ばれる先住民は、東部のイロコイ族と並んで大規模な部族集団を構成してきた歴史があることが今回の調査で理解できた。現在でもニューメキシコ州には19のプエブロ(部族共同体)があり、今回は中でもシルコウの出身地であるラグナ・プエブロを再訪し、その文化について昨年よりくわしく調査を行った。特に、シルコウの小説を支えるモチーフである共同体と自然との絆については、現在でもダンスのような身体芸術に表象されて存続し、また、伝統工芸には、シルコウの文学論の中でしばしば強調されるストーリーテリングがいかに文化に根ざすものであるのかが表現されていることを現地調査によって理解することができた。今回はアリゾナ州ホピ族居留地内にあるホピ文化局の学芸員の方々からも聞き取りをする機会を得て、ナヴァホ族やホピ族など、シルコウの文学世界に頻出する部族の文化についても理解することができた。また年度末に、アメリカ先住民文学を環境文学の視点から研究するセントラルフロリダ大学のパトリック・マーフィ教授に会見し、本研究についての助言を得たことや、アメリカ先住民文学研究の民族文化批評的著書を数多く出版して著名な、サラ・ローレンス大学のアーノルド・クルパット教授と電子メールで最新のアメリカ先住民文学研究について対話する術を確立したことも本年度の大きな収穫である。
|