本研究の最終年度となる今年度は、主に研究成果の発表を視野に入れた現地調査と資料収集を行った。レスリー・マーモン・シルコウの出身部族であるラグーナ・プエブロ族の文化は、アメリカ南西部の特異な混淆文化から強い影響を受けているが、その背景が影響したシルコウの異文化的対話のパターンは主に二つに分けることができる。その一つは、アメリカ先住民とアングロ系白人文化との間の異文化的対話である。このパターンはシルコウの最も新しい小説Gardens in the Dunesにおいて顕著である。19世紀のカリフォルニアを舞台に、アメリカ先住民の少女とアングロ系白人の女性との友好関係を描くこの小説は、アメリカ先住民と白人文化の異文化的対話の表現であると同時に、19世紀における白人対先住民の関係史をオルターナティヴな異文化観から再構築しようとする試みであると言える。今年度はこれについてまとめた論文(タイトル:"Re-Visioning the ‘Garden':Leslie Marmon Silko's Gardens in the Dunes as a New Narrative of Recovery"を、アメリカ西部文学会(Western American Literature Association)の年次大会で発表した。また、アメリカ南西部の地域文化を背景としたもうひとつの異文化的対話のパターンは、シルコウの言説に表象されるアメリカ先住民とメキシコ系アメリカ人の関係に見出すことができる。アメリカ先住民もメキシコ系アメリカ人もアングロ系白人から抑圧される位置を共有しつつ、白人中心のアメリカ社会との異文化的対話を試みようとしている点が、シルコウに加え、同じプエブロ先住民詩人サイモン・オティーズやチカーナの書き手グローリア・アンサルドゥーアなどの作品に見られた。これについてまとめた論文も、雑誌記事や口頭発表の形で発表した。
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