本年度は、映像分析に必要な器具と、関連文献の収集による研究基盤の構成から始めた。文献は1830年以降から二十世紀初頭までの社会的背景を扱うもの、より専門的に広告・ファッション・万博、テレビ、映像などを扱うものといった資料群、および映像分析、ディスクール分析、記号論の最新の研究動向をめぐる理論的な書物などである。19世紀フランスにおいて新聞ジャーナリズムから映像社会への移行のなかで、市場社会(デパート、万博などの出現)と技術革新の連動が大きな役割を果たしているとの仮説をより一層かためることができた一方で、言説構造との相関関係を考えるための精緻な分析が次年度の課題として残された。 6月にブカレストのフランス語圏会議に招聘された際に、日本の文化に関心をもっている多数のコミュニケーション研究者と知り合った。そこから、日本の近代化における映像の位置の問題を、あらためて言語構造的な位置から比較的な視野をもつために導入する必要を感じた。 近代文化の展開は、テクノロジーとサイエンスが結びついたかたちで社会全般の「加速化」でもある。この現象は第二帝政から第三共和制にいたる広範な市場の形成と無関係ではない。増幅する資本投資とマーケット拡大のなかで、速度が収益を生み、映像が消費者をひきつけるという構造が生まれる。その後、社会心理学者たちによって分析された「群衆」の問題は、同時に時代の変容を生きた文学者たちの問題でもあった。ボードレールやゾラなどは、大衆の時代と消費社会の問題に気づいていたが、これを映像との関係で分析するのが本研究の課題である。幸い、現地への調査旅行も含めて資料が整った状態であるので、16年度はこの点にまとをしぼって研究を続行し、より大きな成果を目指すことになる。
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