本課題の研究は広範に渡るため、骨格となる論旨を要約することにし、各論は他の発表媒体に譲ることとする。その大前提として、19世紀フランス社会から20世紀アメリカ社会につながる「スペクタクル-消費資本主義社会」は一続きのものであり、今日世界の大部分に広まっている生活様式(及び価値観)の起源に関する一大転換が、1830年代-1850年代のフランスに見られることがある。同時期は、写真の発明・通信社/廉価新聞の誕生など、後期近代コミュニケー様態のインフラ整備の時である。第二帝政期から第三共和制に続く、テクノロジーと大資本とスペクタクル、そして消費者の欲望(市場的倫理規範)が一体となった、真の消費社会の誕生を準備するのは、そこに加わる「まなざし」の変容である。「ディスプレイ」の発明は、万国博覧会から百貨店の誕生にかけての出来事である。だが、1843年にフォイエルバッハはすでに「人々は事物よりも像を好み、原物よりも複写を好み、現実よりも表象を好む」と、西欧に生まれつつあった「うわべ」への気遣いを指摘している。万博と百貨店といえば、ロザリンド・H・ウィリアムズの優れた先行研究があるものの、重要なのはつまり19世紀に産声をあげたデモクラシー(自由・市民社会)における「倫理・価値規範」の性質に目を向けることなのである。リベラリストたちの言論の自由への闘いの裏で、サン=シモン主義者たちの「荘厳」(spectaculaire)への志向が説かれていた点が重要なのである。 理論面では、(1)ゴッフマン、ホールなどコミュニケーション人類学と、バンヴェスト、ブルデュー、フーコーらのディスクール分析の接合、(2)映画研究におけるショット単位の意味論分析を、認知科学の視点から広告の読み方に応用して文法を探求することを中心に、研究を遂行し、一定の成果を挙げた。 活字媒体のほか、横浜市民講座(慶應義塾大学)、国際シンポジウム「紛争阻止、グローバリゼーションと地域主義のプロセス」(黒海大学基金)などで、成果の一部を発表した。
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