今年度は、以下の2点を目標に研究を進めた。 1.前年度からの成果を引き継いで、バレエ・リュスとその周辺についての研究を深めること。具体的には、バレエ・リュス成立にあたって大きな影響を与えたとされるアメリカの舞踊家であり、モダン・ダンスの創始者イサドラ・ダンカンとの関連を調査、分析するなかで、19-20世紀転換期ロシア文化全般(舞踊だけではなく、哲学、文学、演劇などの諸芸術を含む)における身体観を詳らかにしていくことに目標をおいた。その成果は、ロシア・モダニストたちのダンカン受容からバレエ・リュスの成立、そしてバレエ・リュス初期の芸術が、同じモダニストたちによってどう、ロシア文化固有の文脈のなかに位置づけられたかを追った論文「ロシアにおけるイサドラ・ダンカン受容一バレエ・リュス成立まで一」にまとめられている。また、これに関連する内容の口頭発表を、日本比較文学会東京支部大会におけるシンポジウム(テーマは「身体と型」)でも行っている。 2.ロシア文学における身体性の主題を、「恋愛小説」や「幻想小説」といった文学的ジャンルと重ね合わせるかたちであとづけること。具体的には、19-20世紀の複数のロシア文学作品を取り上げ、多角的な視点をとるよう努めつつも、とりわけ各作品に表象された身体性に注目しながら論じる、という方法をとった。その成果は、2冊の著書『ロシア恋愛小説の読み方』『ロシア幻想小説の読み方』にまとめられている。なお、これはNHKラジオ番組「カルチャーアワー文学と風土」の副読本でもあり、研究代表者は半年間、この番組の講師を担当した。
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