今年度は、本研究に関わる資料の収集・分析、及び電子コーパスの構築を進めた。 本研究の主要資料である五代・宋初に取材する講史小説・戯曲の多くは影印・排印本が公刊されているので、それらの分析を先行させた。現段階では、それらにおける「民族」「国家」に関わる言説は、明末(萬暦中期頃?)に画期があり、物語内容のみならず語り口にも、<われら>と<かれら>を截然と切り離そうという傾向が強くなっているように思われる。この傾向が確かに「ある」と言えるか、またあるとすれば当時のどのような要素と関係があるか、等が今後追求すべき課題である。 当初の計画では、中国・台湾等に収蔵されている未公刊資料の収集も行う予定であったが、SARS流行の影響等のため、海外調査は来年度以降に延期し、代わりに電子コーパス構築は16年度分も前倒しして進行させることとした。 電子コーパス構築は、1)電子化されていない・今後もされる見込みが薄い資料を電子化する(外注)、2)電子化自体はされているが、高度な作業が施せないようになっている不便なコーパスを、可塑性のあるテキストファイルにする(アルバイトに依頼)、の二種の方法を採っている。本研究の主要資料である、五代・宋初に取材する講史小説・戯曲・説唱等の多くは1)の方法を採らざるを得ない。今年度は、『南北宋志傳』等、本研究で予定しているうちの約半分にあたる電子テキストが納品され、現在、校勘を進めている。 また、これらの講史小説・戯曲が産み出された時代の俗文学以外の資料を対照資料として分析したいと考えており、そのための基礎資料として、元・明代の高級官僚の文集を、2)の方法でテキストファイル化を進めている。テキストファイル化することにより、and/or検索のような単純な検索だけでなく、より高度な分析が施せることが期待できる。
|