国会図書館所蔵の単行本の初版Karmaおよび、梅花女子大所蔵のちりめん本関係資料を調査し、仏教絵本Karmaを日本の長谷川商店が製作、イリノイのオープン・コート社が出版した際の詳しい経緯が判明した。特にその挿絵の製作については、日本の絵師鈴木華邨が『往生要集』等と共通のモティーフを使用していること、それが著者ポール・ケーラスの依頼であることをつきとめた。ケーラスは同時代のアジア研究の成果について旺盛な興味を持っており、Royal Asiatic Societyやギメ美術館等の報告に熱心に目を通していた。今回は、特に、挿絵の製作の背景について判明したことを、平成17年5月1日の説話伝承学会で口頭発表した(「創作仏教説話Karma誕生の背景-『蜘蛛の糸』のタネ本が仏教文献でない理由-」。この発表の趣旨は2006年3月発行の『大阪体育大学紀要』第37巻所収の論文「仏の放光と蜘蛛の糸-ポール・ケイラスの原作に日本の絵師が重ねたイメージ-」にまとめている。 現在、Karma掲載の雑誌The Open Courtのバックナンバーや、第2版ちりめん本Karma、第3版ちりめん本Karma、ポール・ケーラスの初期の哲学思想を示す1885年出版のMonism and Meliorism等の資料の収集に成功し、これらの分析を進めている。シカゴ万博前後の動向についてさらなる調査を進めていく予定である。
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