本研究は、オーストロネシア諸語における代名詞の数の体系の歴史的発展の解明を目的とするものである。平成15年度は、主として国立民族学博物館・ハワイ大学などにおける資料収集を行い、a)代名詞形再建について論じた先行研究、b)各言語群における音対応に関する研究、c)諸言語の文法資料などの基本資料の収集を行った。また、これまでに再建された代名詞について、再建された形と根拠となった言語データをまとめ、音対応を確認し、確実に再建可能であるもの(同起源とされる語がすべて規則的な音対応を示すもの)、不規則な音対応を示すもの、再建にあたって同源語と特定されないため無視されているものの分類を行った。その結果、フィジー諸島以外の地域においては、単数・複数以外の数が比較的最近発達したとほぼ確信できることがわかった。すなわち、各主要祖語の段階では、いずれもほぼオーストロネシア祖語と同様の数体系をもっていたと考えられる。この結果を受けて、各言語群において具体的にどのような過程で双数・少数が発達したのか、さらに、このdriftとも呼びうる現象の動機は何であったのかを解明することが次の課題となる。また、フィジー諸島の言語においては、一度、四数体系が発達したあと、一部の言語で数の体系がもとにもどったのか、それとも、他地域同様、少ない数を持つ言語のほうが古い体系を保持していると考えるのが妥当であるのかについて、さらに分析をすすめる。なお平成16年度は、国際オセアニア言語学会(ヴァヌアツ)、歴史言語学に関するワークショップ(シドニー)などで研究成果の一部について口頭発表を行う予定である。
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