東南アジア・太平洋及びマダガスカルで話される「オーストロネシア諸語」における多様な数の体系について、その発達の過程と動機を明らかにすることを目的とし研究をすすめた。15年度に引き続き、これまでに再建された各下位祖語それぞれの代名詞について、近年入手可能になった新しい言語データを加え、上位祖語との比較という視点を加味することで、オーストロネシア祖語から現在みられる諸言語までの変化をパターン化した。その結果、オーストロネシア諸語全体に起こった数の体系の変化の流れがフィリピン・インドネシアの言語では一般化できるのに対し、オセアニア諸語においては数の増減の変化が動的かつ局所的であることを示した。さらに、これらの変化が起こった動機として、オーストロネシア諸語の拡散の早い時期にパラダイム上のギャップが生じる変化が起こり(一人称包括系の発達)、その結果として数のパラダイムの再編成が起こり、パラダイムが安定する方向へと発達したフィリピン・インドネシアの代名詞では画一的な数の体系がみられる結果となったが、安定しない方向へと変化したオセアニア諸語では、現在でも、数の増減が動的な変化として続いていると考えられることを示した。なお、基本資料の収集および分析は、主としてオーストラリア国立大学・国立民族学博物館にて文献収集を行った。また、進行中の成果の発表を国際オセアニア言語学会(南太平洋大学・ヴァヌアツ、7月4日)およびオーストラリア言語学会における比較言語学の手法に関するワークショップ(シドニー大学・オーストラリア、7月15日)にて、また、概要をAA研フォーラムにて発表した。
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