18世紀の文筆家の異なるテクスト種、すなわち(A)公刊の意図をもって書かれたテクスト(=公的テクスト)と、(B)書簡、日記など、公刊の意図なしに書かれたテクスト(=私的テクスト)における主文の枠構造・および副文における多項述語語順に関して、コーパスに基づく調査を行ったところ、次のような(暫定的)成果が得られた: 1)主文における枠構造の完全性とテクスト種との間には統計的に有意な関係が認められない。すなわち、調査した文筆家たちはテクスト種の違いによって主文の枠構造を使い分けてはいなかった可能性が大きい。 2)完全な枠構造の規模に関しては、テクスト種との有意な関係が認められた。具体的に述べるならば、私的テクストと比較して公的テクストにおける枠構造の規模の方がより大きくなる傾向がある。 3)多項述語語順は、主文および副文のいずれにおいてもテクスト種によって異なる場合が確認された。しかしながら、その異なり方は文筆家によって様々で、結果を判定し統一的に解釈するには更なる調査が必要である。 4)多項述語語順の相違がテクスト種に起因している可能性とならんで、その時々の統語的環境も当該語順に関与的である兆候も得られた。 平成16年度は対象とするコーパスを更に広げて調査を進め、あわせて同時代の文法書や文筆家の文法に関する発言を詳細に参照することで、上記(暫定的)成果の補足・吟味を行う。またこれに引き続いて、18世紀と同様の手法で19世紀のテクストについても調査を進めて行き、最終的にはこの2世紀間における語順変化とテクスト種の関係を明らかにし、更には語順変化にいかに人為が関わったのか、という問題の解明にも迫ることを試みる。
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