18世紀の文筆家の2つの異なるテクスト種、すなわち公刊する意図をもって書かれた公的テクストと、そのような意図なしに書かれた私的テクストにおける語順を比較調査したところ、主文の枠構造に関してはこれらのテクスト種の間で統計的に有意な違いが認められることが判明した。 しかしながら、多項述語語順に関しては、公私テクスト間の違いは認められたものの、その異なり方には一定の傾向性が認められなかった。これについて補足的調査を行ったところ、1)多項述語が用いられている統語環境の解明、および2)テクスト種のより詳細な規定、の2点が問題解決にとって重要であることがわかった。具体的に述べれば、1)については、当該述語における定動詞の法が接続法の場合に通常ではない語順が用いられる傾向があり、また2)については、近世においては書簡のテクストが公的性格を持ちうるということである。 これらの点については更なる調査が必要であるが、現時点で18世紀に関しては、威信をもつ異形がまず公的性格のより強いテクストで用いられるようになり、続いて次第に私的テクストにも浸透していくという一般的傾向が、暫定的ではあるが、確認できた。 19世紀についても18世紀の調査の際に用いた手法で、コーパスの作成および分析を行ったが(現在も継続中)、当該世紀については上で指摘した2)の点を18世紀にも増して十分に考慮する必要性があるため、これと平行して歴史学および社会学の文献調査を行いつつ、データのより精密な分析を図っているところである。
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