研究概要 |
Queen's大学のO Baoill教授による母語話者データ判断により、従来観察されていなかった事実が2点観察された。 1.Superiority Chomsky(1973)以来、英語には、優位性効果があることが知られている。つまり、基底構造において、2つのwh句A, Bがあり、AがBを統御していれば、Aは、Bより優位であり、Bは、Aを越えて、[+Q]COMPの指定部に移動できない。これに対して、アイルランド語では、この優位性がなく、(1a-b)のように、同一節内において、どちらのwh句が[+Q]COMPの指定部に移動してもよい。 (1)a.[WH1[+Q]C[IP【triple bond】tWH1 WH2]] b.[WH2[+Q]C[IP【triple bond】WH1 tWH2]] さらに、この優位性は、節を超えても欠如しており、したがって、(2b)のように、埋め込み節のwh句が、主節のwh句を超えて、[+Q]COMPの指定部に移動できる。(ただし、この際、両方のwh句が、同一のものであると(例えば、ce 'who'とce 'who')、文法性が落ちる。) (2)a.[WH1[+Q]C[IP【triple bond】tWH1[CP【triple bond】WH2]]] b.[WH2[+Q]C[IP【triple bond】WH1[CP【triple bond】tWH2]]] 2.COMP Alternations アイルランド語は、補文標識(COMP)が3つ存在する(go 'that,' aL (direct relative marker), and aN (indirect relative marker)。James McCloskeyの一連の研究によって、その交替のパターンが明らかになってきた。McCloskey(2002)によれば、(1)のパターンが可能である。(アイルランド語には、3つの主要な方言があるが、以下では、問題を明確にするために、データは、Ulster方言からのものに限定する。) (1)a.aL【triple bond】aL【triple bond】trace b.aN【triple bond】go【triple bond】rp c.aL【triple bond】aN【triple bond】rp d.aN【triple bond】aN【triple bond】rp e.aN【triple bond】aL【triple bond】trace(rp=resumptive pronoun) 今回の調査の結果、これまで報告されていないパターン(2)があることがわかった。 (2)a.aL【triple bond】go【triple bond】rp b.aL【triple bond】go【triple bond】go【triple bond】rp これまで、aLは、移動の痕跡を局所的に統御しなければならないとされてきたが、(2)では、痕跡が存在しない。ただし、(3)の構造のように、aLは、局所的にrpを統御できない。 (3)a.^*aL【triple bond】rp b.^*aL/aN【triple bond】aL【triple bond】rp この事実は、これまで、aLは、統語部門において、移動が関与していることを示す指標であると考えられてきたが、それ以外の役割を持っていることを示している。
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