平成16年度はA移動構文における再構築現象に課せられる制約の性質を明らかにすることを目標とし、再構築は移動要素が解釈可能になった(即ち解釈不可能な素性が除去され、かつ主題役割が付与されている)時点でのみ可能となるとの仮説を立て、その妥当性を検証した。 年度の前半には、再構築が基底痕跡の位置ではなく、解釈可能性が保証される位置で行われることを立証する作業を行った。日本語のかき混ぜ構文に関する先行研究を網羅的に吟味した結果、サ変動詞構文でのかき混ぜ現象が冒頭で述べた仮説を支持する有効な根拠となることが明らかになった。この作業と並行して、この時期には昨年度の研究成果を論文にまとめ、発表した。 年度後半には、A移動を経た名詞句の基底痕跡が存在することを支持する統語的・意味的根拠を発見・提示する作業を行った。日本語のかき混ぜ構文の中から典型的なA移動と同じ性質を持つ構文を選出し、再構築効果と関連のある現象を含む例文を作成してインフォーマントによる文法性判断テストを行った。その結果、かき混ぜ操作適用後に動詞句前置が適用されると適正束縛条件に抵触し、不適格となることが判明した。これにより、A移動構文に基底痕跡が存在することを立証することが可能となった。
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