本年度は、主に日本語、中国語、ドイツ語の学習者音声におけるポーズが非流暢性の原因となっている場合について、音声データの収集および、音響分析を行なった。先ず、中国語話者を対象に、母語と非母語において言いよどみのパターンが異なるかどうかについて、中国語(母語)発話時と日本語(外国語)発話時を比較した。その結果、非流暢性マーカー(ポーズ、延伸、言い直し、繰り返し)の出現パターンには、母語話者と同じパターンを示す場合(ポーズや延伸の語中の出現位置)とそうでない場合(ポーズや言い直しの後処理)があることが明らかになった。このことから、言いよどみやポーズのパターンは外国語において習得可能であるものの、その後処理(語頭に戻って言い直すか、続行するか)のパターンには上級者においても母語の干渉が見られ、習得が困難であると考えられた。 次に、昨年の研究において見られたドイツ語の言いよどみのパターンのうち、学習者にとって発音が困難な母音(例えばドイツ語のウムラウトなど)や音連続の前に観察される言いよどみについてさらに検討した。このような言いよどみのパターンは、今年度作成したドイツ語学習者音声データベースにおいても多く見られる。言いよどみのパターンと、今後も母語話者による流暢性の評価を照らし合わせ、流暢性評価との関連を考察する。また、英語学習者音声データベースとの比較を行なったところ、不適切なポーズの要因として音韻環境、音連続、単語親密度、単語長などが挙げられ、通言語的特徴があることも明らかになった。昨年まとめた言語臨床における様々な非流暢性尺度との関連性についても検討した。 最後に、日本人学習者にとって発音が困難な母音と音連続に関しては、調音運動の詳細を探るために、単語発話時の舌や顎の動きについて、2次元MRIムービーを用いて撮像し、観察した。これらのデータの解析を今後の課題とする。
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