本年度は、上記の研究課題を達成するために、以下の調査、成果報告を行った。 (1)秋田県沿岸部における方言実地調査 秋田県の日本海沿岸部(山本町、八郎潟町、秋田市、本荘市、仁賀保町、金浦町、象潟町)において、方言の実地調査を行った。調査項目は、格表現、原因・理由表現、テンス・アスペクト表現、否定表現、推量表現等である。秋田県沿岸部の方言では、テンス・アスペクトの表現体系に特徴が見られる。特に過去時制を表す「テアッタ」が、完成相過去と継続相過去の両方を表すという現象が認められていたが、これがこの地域一帯に見られることが確認された。 (2)昔話資料のデータベース化と用例分析 方言で語られた昔話の文字化資料を電子化し、コーパスを作成した。そのコーパスから用例を採集することにより、方言の格表現、テンス・アスペクト表現、推量表現の形式と用法を、地域別に集計し、計量的な観点によって分析した。東北方言の格助詞「サ」の調査では、存在場所の用法(「サ」の用法としては新しい用法)での「サ」の使用率が、青森6.1%、秋田28.6%、山形63.0%となっており、昔話の話者の世代(ほぼ明治生まれ)では、山形を中心に「サ」の用法の拡張が起きていたと言える。一方、現在の若年層に行ったアンケート調査では、青森98.0%、秋田91.7%、山形87.0%の使用率であり、北部の地域ほど加速度的に存在場所の用法での「サ」の使用が浸透したことが分かる。 (3)研究成果の公開 本研究の成果報告書として、『秋田県本荘・由利方言調査報告』を刊行した。
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