本年度は、15年度より継続して行っている東京大学国語学研究室蔵『大慈院本涅槃講式』の調査を行った。調査の概要は次の通りである。 第1回調査 東京大学文学部国語研究室 平成17年8月23日〜8月24日。昨年度の調査に引き続き、講式としてもっと古い譜の形態を留める「大慈院本涅槃講式」(一巻、南北朝写、特22F-36、L99806)の調査を行い、移点作業を予定通り完了した。また他に「涅槃講式付 舎利講式」(一帖、室町時代写、特1-34、L91122)の閲覧も行った。 この調査結果をコンピューターに入力し、そのデータを元に諸本との校異作業を行った。さらに、これらの成果を踏まえて訓読文を作成した。 この訓読文を一つの資料として、「涅槃講式譜本における促音」を執筆した。この論文は、講式の譜における促音の扱われ方を取り上げ、和語の促音音節に譜が付されるかどうかについて涅槃講式の諸本を資料として観察を行ったものである。その結果、促音が施譜されるかどうかは、節博士が施される仮名「ツ」の有無に基本的に依存することが明らかとなった。「ツ」が付されているにも関わらず施譜されない場合もあるが、その大部分はその音節が促音であることとは関係なく、他の要因による節博士の省略と判断できる例であった。このように講式譜において、促音であるかどうかが施譜にあまり影響していない原因としては、講式譜の成立が比較的新しいこと、記譜法の基本的な構造として、右節博士の付される対象が仮名であるために、仮名の有無が節博士を加えるかどうかの判断に大きく影響することが考えられる。
|