まず、第一点目の「基礎資料の収集と鷺流狂言台本『保教本』本文のテキスト化」であるが、近世期の狂言台本資料の収集と論文の整理を行った。コピーのため、国文学研究資料館や法政大学能楽研究所へ赴いたり、写真の紙焼きを注文したりして、当初予定していた分の約八割の資料を手元にそろえることができた。鷺流狂言台本『保教本』のテキスト化は今年度中に終わらなかったので、来年度も引き続き行う予定である。現在は、『保教本』に書かれている注記と「版本狂言記」の詞章との比較を行っている。 第二点目の「指示詞の発達状況の調査」に関しては、今年度論文を二本発表した。一本は、「〜ナタ」系の指示詞に関するものである。「コナタ・ソナタ・アナタ・ドナタ」の「〜ナタ」系語は、室町末期から江戸時代の中期にかけて、方向を示す指示詞から人を指す人称詞へ用法を変えたことを明らかにした。従来からアナタが二人称化した問題が未解決であったが、本論ではソナタ・コナタが二人称になったあと、指示詞としての連動から二人称化したという新しい説を唱えた。もう一本は不定詞「ドウ」の発達を関してである。従来「ドウ」は当初から疑問詞として存在していたと思われていたが、狂言資料を中心にしてみると「ドウ」の初期の用例には「ドウナリトモ」のような不定用法しかなく、疑問用法は遅れて発達したことを指摘した。その理由として「コー、ソー、アー、ドー」の指示副詞の体系化が「ドウ」を疑問詞として発達させたのではないかと考察した。 さらに、第三点目の「研究結果発表」に関しては、上記の論文発表に加え口頭発表を行った。韓国プサンで開催された「第6回東アジア日本語教育・日本文化研究学会」において、不定詞「ドウ」の発達に関する発表を行った。
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