研究概要 |
今年度は、省略について、談話標識likeに焦点を当て、なぜこのようなあまり意味のないと考えられてきた表現が省略されず、会話の中にたびたび現れるのかについて考察した。 Andersen(1998,2000,2001)では、談話標識のlikeを、発話と、思考のnon-identical resemblanceの関係を示す手続き的意味を持つ標識であると分析している。本研究では、likeに対応する「よう」「みたい」「ふう」といった様々な日本語表現も同様にnon-identical resemblanceを示すために用いられているか検討し、それらの日本語表現も、話し手(または話し手以外の誰か)の思考と、発話との間に類似性、つまりnon-identical resemblanceの関係があるということを示すために用いられていることを明らかにした。 本研究で扱った談話標識likeが用いられている例の多くは、仮にそれが用いられなかったとしても、前後に適切な文脈さえ与えられれば、その発話が話者の思考との類似性に基づいたものであると理解できるようなものであった。もしそうであれば、likeの省略が可能となるはずである。しかし、この表現が省略されず用いられることにより、聞き手はより簡単に話し手の意図したルースな解釈にたどり着くことができるようになると考える。つまり、likeの省略が可能な場合もあるかもしれないが、それが省略されず記号化されることによって、聞き手の要する処理労力を軽減し、発話解釈の手助けをしているのである。
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