今年度は、動詞句削除構文(VP ellipsis)と擬似空所化構文(Pseudogapping)と呼ばれている省略構文の類似点・相違点について研究した。この二つの省略構文は全く別の構文ではなく、擬似空所化構文は動詞句削除構文の一種であるという分析が近年提案されている。この分析は、異なる削除構文を統一的に分析する点において理論的に望ましい。しかしながら、この分析を仮定した場合、両者が示す次の二つの異なる性質を如何に説明するかという新たな問題が生じる。 1.動詞句削除構文における削除は随意的であるのに対し、擬似空所化構文における削除は義務的である。 2.動詞句削除構文では主節動詞と埋め込み動詞の二つが削除箇所の先行詞になれるが、擬似空所化構文では埋め込み動詞のみが先行詞になれる。 この問題に対して、次の二つの条件を仮定することにより、動詞句削除構文と擬似空所化構文の相違点が原理由に説明できることを明らかにした。 3.動詞句が削除される場合、削除される動詞句とその先行詞となる動詞句は同一の語彙要素から構成されていなければならない。 4.非合法的移動操作が残した痕跡を含む構造は、音韻部門で発音されてはいけない。
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