研究概要 |
前年度に引き続き,英語における擬似空所化(Pseudogapping)と動詞句削除(VP ellipsis)と呼ばれる二つの省略構文が持つ特徴について研究を行った。擬似空所化構文において削除される要素は,動詞のみではなく,動詞句全体であるという分析が,Jayaseelan(1990)やLasnik(1999)により提案されている。これらの分析によれば,擬似空所化構文における文末の残留要素は,動詞句が削除される前に,動詞句内から摘出されていることになる。これらの分析は,擬似空所化構文と動詞句削除を全く異なる二つの構文として捉えるのではなく,擬似空所化構文は動詞句削除構文の一種であると考える点において,理論的に優れている。しかしながら,この仮説をより推し進めるためには,文末に生起する残留要素の摘出方法を明らかにしなければならない。この問題について,Jayaseelanは重名詞句移動,また,Lasnikは目的語転移により,残留要素が動詞句内から摘出される可能性を示唆している。これに対して,本研究では,これら二つの分析の問題点を指摘し,新たな摘出方法を提案した。具体的には,Larsonが主張する二重動詞句構造に基づき,「残留要素は下位の動詞句内から上位の動詞句の指定部に移動する」という新たな仮説を提案し,JayaseelanやLasnikの分析では説明できない次の三つの事実に対して原理的説明を与えている。 1 擬似空所化構文では,文末に生じる残留要素が必ず焦点化される。 2 動詞句削除構文は主節に先行する従属節内に生起できるが,擬似空所化構文は生起できない。 3 動詞句削除構文では主節動詞とその補部節全体を削除することができるが,擬似空所化構文ではできない。
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