古英語の語順は現代英語に比べて自由であったといわれている。このことはto不定詞節中における動詞と目的語の相対語順に関してもあてはまり、目的語-動詞(OV)語順と動詞-目的語(VO)語順の両方が観察されている。このような不定詞節中における動詞と目的語の相対語順は、英語におけるto不定詞の歴史的変化を分析する際の重要な要素の一つである。そこで本研究では、the Brooklyn-Geneva-Amsterdam-Helsinki Parsed Corpus of Old Englishを利用し、古英語の不定詞節中におけるOV語順とVO語順について調査を行なった。調査の結果、古英語期を通して、(i)OV語順が卓越していること(全体の70%を占める);(ii)目的語が代名詞である場合は、常に代名詞目的語が動詞に先行するOV語順であることの2点を示した。代名詞目的語がto不定詞節中で動詞に後続する用例が観察されなかったことから、古英語における不定詞節中の基底語順は定形節において一般に仮定されている基底語順と同じく「主要部後続型」(OV語順)であることを示唆した。また、古英語期においても時代が進むにつれてOV語順が衰退し、VO語順が卓越してきたことを示した。具体的にはOE2期(850-950)ではOV語順の生起する割合が85.7%であったのに対し、OE3期(950-1050)では56.0%に減少し、さらにOE4期(1050-1150)ではOV語順とVO語順との割合が50.0%対50.0%へと変化していることを提示した。英語の定形節における語順がOV語順からVO語順へと変化した時期は1200年頃だと考えられている。今回の調査結果は、to不定詞節内の語順も定形節内の語順と同じ変化をたどっている可能性を示唆している。このことはto不定詞の名詞性(あるいは動詞性)を論じる上で大変興味深い言語事実である。
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