研究概要 |
文章の内容が読解と記憶に及ぼす影響について,連続する二文を用いて,提示方法を実験的に操作しデータを得た.その成果は甲田・天野(2005)として公表した.学習に当てる総時間が同じであっても,分散的に刺激材料を提示するほうが集中提示よりも優れた学習効果をもたらすという現象,-すなわち分散効果-は,古くから実証され続けてきた.従来の研究では単語または短文が用いたれていたが,連文においても分散提示条件の再生成績が最も良く,分散提示による記憶課題への有効性が認められた.甲田(2001)で論じたように,因果関係の二文では原因と結果がもともと密接な関係で全体として一つの事態として理解されているのに対し,時間的前後関係の二文は二つの事態を個々の連続として覚えなければならない.このような前文と後続文を両方覚えなければならない文章において,完全に処理される場合の分散効果がよりはっきり現れた.また,従来の研究で因果関係文の再生率が高いことを考えると,分散的学習方法は負担がかかる刺激材料に有効な記憶手段であることが示唆された.また,外国人のための日本語学習教材としてのコンピュータ利用の有効性と限界,および学習援助方法について口頭発表を行った.近年,CALL : Computer Assisted Language Learningの有効性が注目されているが,学習者側の要因による限界,たとえば,学習進度管理,モチベーションの操作など,教師側による援助について考察した.さらに,文章読解過程において用いられる読解ストラテジーの種類と配分について,日本語母語話者と外国入日本語学習者との違いを明らかにするためデータを収集した.これについては現在も収集中であり,来年度の継続課題として準備中である.
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