本年度も狩猟故実書の基礎的研究を行なった。 まず、国立公文書館旧内閣文庫所蔵の狩猟故実書を調査した。『西園寺相国御家秘伝之書』『持明院家鷹秘書』『鷹経弁疑論』『蒼鷹秘伝記』『鷹相之巻抜書』『政頼秘伝一流目録』『宇都宮流鷹書』など20件40冊を実見・調査し、鷹書の流布を考える上で貴重な知見を得ることができた。 また、(財)前田育徳会尊経閣文庫に所蔵されている数十件におよぶ狩猟故実書の調査は、この研究の重要な柱のひとつである。今年度は同文庫所蔵の中世の獣猟故実書『狩詞』の古写本5件を閲覧・調査し、うち「大永四年(西暦1524年)」の奥書をもつ1本が、『狩詞』諸本中、最古級の善本であることを確認した。なお、尊経閣文庫には多数の鷹狩故実書もあり、それらは来年度あらためて調査をする必要がある。 さらに、宮内庁書陵部所蔵の鷹書のうち、桂宮旧蔵本についても調査を行なった。他系統の写本との比較など、詳しい分析は今後の課題である。 こうした故実書類の調査と並行して、故実書の多くが成立した室町・戦国時代の古記録類などを読み、当時の武芸の実態などを探る作業も継続した。 以上の調査・研究によって、室吋・戦国期の武家が公家の狩猟故実書を学習していた様子が少しずつあきらかになってきている。また、従来、武家の文化として語られがちだった巻狩は、将軍のレベルでは室町まで継承されておらず、室町前期には犬追物、後期には鷹狩が重要な文化であったことも判明してきた。.
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