本年度は、当該研究の目的のため、史料・資料の調査と収集に重点を置くと同時に、本テーマに関連する自身のこれまでの研究を論文等のかたちでまとめて公刊することに務めた. 前者の史料・資料の調査と収集に関しては、インド、スリランカおよび日本で、商標・特許登録関係の史料・資料の所蔵機関や所蔵形態について調査を行った。これらの文書は、19世紀末から20世紀にかけて、モノや図像が固有な「商品」として国家制度的な認知を受け、占有性を想定されながら流通していった過程を検証するための一次史料として十分な価値を有するものと判断された.また、インドやスリランカのほか、南アフリカとモーリシャスを研究のため訪問し、文書館史料のほかに、インタヴューを通じて、南アジア出身の商人・資本家のネットワーク構築に関する史料・情報を採取した. 後者の研究成果の公刊に関しては、神戸・大阪地域で生産されたマッチの明治大正期におけるアジア域内流通を取り上げた英文論文で、アイディア(商標)や技術(機械)などを地域や人に応じて変化・変形させながら還流させていった南アジア系商人のネットワークの役割を、具体的に実証した.また、同時に、こうしたネットワーク型の流通・生産活動と「国産」を目指す経済活動とが、競合関係として認識されるようになった過程とその政治的言説も分析している.他1点の英文論稿では、同じく南アジア系の資本家がインドとアラビア半島をネットワークで結び、英・蘭系の汽船会社や植民地当局の介入に抗しながら、巡礼(ハッジ)者運搬業で活躍した過程を検証した.また、邦文では、現在自身が行っている研究の全体像を俯瞰する内容をもつ論稿を公刊した.
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