研究概要 |
本年度の研究の重点は,ソ連軍占領地域(後にドイツ民主共和国)、の再軍備措置に対する住民の反応の分析にあてられた.そのために平成17年8月にほぼ一ヶ月をかけて旧ドイツ民主共和国国家保安省文書館,ブランデンブルク州立中央文書館およびベルリン国立図書館等において資料収集を行った. 上記の点を明らかにするために,国家保安省を中心とした住民の監視システムの側によって収集された民情報告を史料として検討することを予定していた.しかしながら再軍備措置が事実上開始された1948年から数年間にかけては,こうした監視システムはなお構築過程にあり,そのため民情報告に関する史料はこの時期については存在していないことが調査の結果明らかとなった.一方1950年代に入ると,こうした監視システムが機能し始めると同時に,「社会主義転覆を目的とした扇動罪」といった罪状で,再軍備問題に対して批判的な言動を行った人物が調査・起訴対象となり始める.こうした史料を分析した結果,暫定的な結論ながら,住民は,1)ソ連陣営に自国が再軍備措置を通して組み込まれることに対する反感を示していたこと,2)社会主義統一党が流布した「帝国主義陣営の一員」としての西ドイツというイメージをそれほど受容していなかったこと,3)自国においてなされつつあった再軍備措置が,兵士に対する訓練のあり方等の点において,ナチス期のそれとの類似していたことによって,強い忌避感を示していたこと,を明らかにした. また1940年代に関しては,社会主義統一党地方組織が,党員ならびに地域住民向けに行った集会の記録が現存しており、その分析を行うことによってこの時期の状況を明らかにできると考えている.すでに調査を開始しているが,莫大な量の史料が非体系的に所蔵されている現状から,現時点ではではなお史料の収集段階にある. なお現在上記の史料をもとに研究成果を発表するために論文を執筆中である.
|