二年間プロジェクトの初年となる15年度は、二回の現地調査を中心に史料の収集と分析に重心をおいた。 十五年八月にサンフランシスコおよびニューヨークで実施した調査では、従来の研究が見落としがちであった性衛生科学者と諸女性市民団体の動向に焦点を当てた。とくに、ロックフェラー財団文書館で同財団関係者の1910年代における役割をさぐる手がかりを得たのは大きな収穫だった。先行研究が前提視する、「<道徳>から<科学>へ」という図式への有力な反証を得た。サンフランシスコ歴史協会およびニューヨーク公立図書館の史料とあわせて、検証作業を続けている。 十六年三月には、研究当初の予定を繰り上げて大英図書館およびロンドン首都大学女性研究図書館(ともに英国ロンドン)におもむいた。雑誌The Shieldを中心に、米国での諸アクターと英国の動向との関連を追跡した。米国にのこっている史料からは必ずしも重視されないNational Vigilance Committeeの位置づけが浮かんでくるのが興味深い。一国史の枠組みから距離を取る重要性をあらためて認識する。詳細な史料分析の十六年度に持ち越すことになる。 女性研究図書館に所蔵されるJosephine Butler文書は推測よりも膨大なものであった。今回の予備調査をもとに、十六年度の研究計画を組み直していきたい。
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