バルト海世界の実態に即した近世スウェーデンの戦争経営と国家形成の分析を目的とした本課題の今年度における研究は、スウェーデン国家の複合性の分析に主眼を置いて進展した。まず2004年8月4日から8日にかけてストックホルム大学にて開催された第25回北欧歴史家会議に参加し北欧の歴史研究者と交流を深めることで、本課題が追求する近世国家の複合性に関する最新の知見を得た。ここで得られた知見を確認しつつ、今年度はとりわけ近世スウェーデン住民のなかに胚胎した帰属意識の変遷について分析を進め、その成果は以下の三点に集約された。第一に複合的国家編成の具体的事例として、スカンディナヴィア半島南端のスコーネ地方のスウェーデンへ編入過程に見られたスコーネ住民の帰属意識を検討した。スコーネ住民の帰属意識が自らの利害関係を基盤としながら旧来属したデンマークとスウェーデンの間で揺れ動いた様相は、『北欧史研究』への投稿論文として近日中に公となる。第二に近世国家に包含された地域住民の複合的な帰属意識を束ねる統合軸として、近世スウェーデンにおける祖国意識の展開に注目して検討した。今年度は主に宗教的言説における祖国愛概念を分析することで、政治的・社会的な複合的編成が宗教的理念を基盤として統合された事実を確認し、その成果は『IDUN北欧研究』に公表された。第三に、『人間科学研究』に公表した論文で、スウェーデン文化の複合性をヴァイキング時代以来の伝統をもった民衆生活の側面から検証した。以上の成果から、従来の集権的な軍事国家像を批判可能なスウェーデン国家の複合性に関しては実証度が深まったと総括できる。そして今年度新たに注目した祖国概念のように、今後はそうした複合的編成を「スウェーデン」として統合した要因について考察を進める必要を認識している。
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