平成16年度は本研究の主要テーマのうち、1.「ドイツ語圏における民族運動の政治的側面」と2.「ドイツ系民族歴史学の生成」の二つを取り上げて重点的に基礎研究をおこなった。まず、「民族運動の政治的側面」については、中欧における「民族」概念形成の背景となった戦間期の政治状況を解明すべく史料調査・検討をおこなった。この民族問題の政治活動についてのより詳細な実態をあきらかにするため、まずドイツとオーストリアの合邦問題に関連する政治運動史料を収集した。特に「ドイツ・オーストリア協会」Deutsch-Osterreichi-sche Arbeitsgemeinschaftおよび「アンドレアス・ホーファー協会」Andreas-Hofe-Bundの二団体にかんする一次資料を中心に調査・収集し、精査した。また、中欧の民族をめぐる外交問題を解明するために、戦間期のドイツ外務大臣グスタフ・シュトレーゼマンについての史料を収集した。政治的側面のなかでも、このような「上から」の運動に加え、「下から」の民族運動として、民族の自治権を求める運動「ヨーロッパ少数民族会議」についても調査を開始した。さらに、文化境界領域において民族運動に従事した政治的指導者らにかんする一次史料をドイツにおいて調査・収集し、精査した。また、「民族歴史学の生成」については、主としてドイツ・オーストリアにおける民族的歴史研究の系譜を解明するための基礎文献および一次史料をオーストリアにて調査・収集、精査した。その中心となったのは、インスブルック大学教授団の第二次世界大戦終結後におこなわれた「非ナチ化」史料、歴史研究者が収集した抜刷コレクション、および歴史学・民族学研究者であるボプフナーHermann Wopfnerにかんする史料である。これらの基礎作業を基に、平成16年度研究を継続する予定である。
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