研究概要 |
平成15年度の調査・研究は、第一次世界大戦期の「移民のアメリカ化」政策を軍隊との関連に焦点を絞って実施した。8月1日から9月10日の期間には、ワシントンDCとシカゴで一次文書調査を行った。前者においては、外国系兵士の訓練・教育プログラムの実態を記録したCommittee on Training Camp Activities文書をNational Archives所蔵のU.S.Department of War, Military Intelligence Division史料から特に抽出し、通読・分析した。ここから得られた新たな知見は、1.通説的知識とは異なり、訓練キャンプでは移民の兵士に対して英語やアメリカ的慣習の強制は行われておらず、移民の母語を用いた教習や、外国系の将校の採用などが広く行われていたこと、2.その処遇において抑圧的だったのは、むしろ将官クラスへの昇任が望めなかった黒人兵士に対してだったこと、である。後者のシカゴでの調査はシカゴ大学が所蔵する、訓練基地広報誌、Trench and Campを中心に実施したが、ユダヤ教やカトリックの聖職者が頻繁に基地を慰問に訪れていた事実を新たに発見した。日本国内での研究は、国立国会図書館所蔵のU.S.Congressional Recordを中心に、軍隊のアメリカ化の背景をなすImmigration Act of 1917を対象とした。同法の成立過程では南・西アジア人や日本人の包括的排除が大きな論点であったことが明らかになった。以上、国内外での研究から第一次大戦期の軍隊等が実施したアメリカ化政策が、総じてヨーロッパ系の移民に対しては文化多元的アプローチをし、同時に「肌の色」(color-line)に立脚した「アメリカ人」の境界を新たに画定しつつあったことが結諭として得られた。なお、この研究成果の一部は学会報告、「新移民とホワイトネス-20世紀初頭の"race"と"color"-」『アメリカ史研究会夏期セミナー シンポジウムI:アメリカ史における「人種」の意義』(平成15年9月20日、於、南山大学)に結実した。
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