研究概要 |
遺跡から出土した植物遺体を考古学的に検討するために不可欠な実験・分析機器(実体顕微鏡および写真撮影装置,フローテーション・マシーン)を整備したうえで,炭化植物種子の検出作業をおこなった.対象とした遺跡は,青森県むつ市江豚沢遺跡(弥生時代前期),岩手県一戸町御所野遺跡H地点(縄文時代後期),神奈川県平塚市湘南新道関係遺跡群(古代),岩手県水沢市杉の堂遺跡(古代)といった関東・東北地方の4遺跡である. このうち,江豚沢遺跡・御所野遺跡H地点は自らが発掘調査を行い,遺構の埋土をサンプリングし洗浄したが大部分の遺構を検出のみにとどめたため炭化種子の検出はみられなかった.来年度以降,本格的な遺構調査に着手するので焼土遺構が検出できれば植物遺体が回収される見込みが高いと考えられる,このほか湘南新道関係遺跡群では発掘調査の担当者の協力を得て竪穴住居10棟以上のカマド焼土サンプルを得ることができた。サンプル総量のうち20%の洗浄が終了した段階ではあるが炭化種子が効率よく回収されつつある.すでに洗浄・同定作業が終了した杉の堂遺跡では,焼失住居から多量のソバとヒエが検出されたほか,イネ・アズキ近似種・アワなどの栽培種,コナラ属など野生の食用植物種子が回収された.これまで,低湿地遺跡からの出土が中心であった植物遺体であるが,本年度の研究によって組織的なフローテーション法を導入すると東北・関東地方であっても台地上の遺跡から炭化種子の回収が可能である点が実証的に示された.来年度以降も継続して資料の蓄積と分析を実施する.
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