古墳時代前期を中心とした近畿、西日本の鉄鏃・銅鏃の出土例および実測図の集成とともに型式の集成を行い、データベース化を進めた。 その過程で、特異な型式をもつ鹿児島県成川遺跡出土の鉄製武器類に注目し、この実測図を作成し、これをもとに論文集『古代近畿と物流の考古学』にて「古墳時代中期の武器・武具にみる交流の諸相と斉一性」を発表する。これは古墳文化の外縁地域における鉄器型式の認識と製作技術導入のずれに注目した考察で、外縁地域での自由な型式設定に対して他の前方後円墳造営地域の広い鉄器型式の斉一性のもつ特殊性を指摘した。また、畿内からの武器類の配布を認めつつも、武器型式の地域性を指摘することで鉄製甲冑類以外の鉄製武器・武具の地方生産の可能性を指摘した。 また、武器の集成成果の一部を利用して、滋賀県立大学での第5回古代武器研究会において「日韓鉄鏃変遷にみる武器の解釈」という研究発表を行った。第一に、日韓両地域に非常に類似した鉄鏃型式が存在し、偶然の産物でないことを論証し、それを利用した両地域の相対年代観の整理を行なった。それを踏まえて第二に、日本出土鉄鏃および鉄製武器全般にわたる大陸との非常に密接な関係と、そのなかでの鉄製甲冑類に見出される特異性を指摘した。結論として、個々の型式組列の検討から、武器・武具の型式には少なからず儀仗的な側面があり、一連の型式変化は、必ずしも武器・武具の機能的発展が主導したものではなく、大陸からの新技術の導入と、それを用いた儀仗的な型式の選択という側面が少なからず認められるとする、従来とは異なる見解を発表した。これにより、古墳副葬品における武器・武具の実用性の評価を含めて、武装の実態に迫る研究の基礎を整えた。
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