研究概要 |
平成15年8月から9月にかけて,中国雲貴高原の省都・昆明市と紅河ハニ族イ族自治州において,文献資料・統計資料の収集,観光関連の公的機関への聞き取り調査,フィールドワークを行った。新たに、得られた知見は,以下のように整理できる。 1.良明市は,中国西南部から東南アジア諸国にかけての国際観光の重要な結節点となっている。近年の昆明市では,国境を跨いだ周遊型国際観光客向けの民族観光地が市内や市街地近郊に形成される一方で,昆明経由で雲南省各地へ旅行する中国の国内観光客の急増を受けて,雲両省の民族事情を紹介するテーマパーク・エスニックレストラン・博物館などの展示集客施設も多数立地している。消費対象としての「観光」が根付くなか,「外国人のまなざし」と「国内観光客のまなざし」のもとで,多様な民族観光のあり方が形作られている。 2.紅河ハニ族イ族自治州は,中国西南部からベトナム・ラオスへと抜ける重要な国際観光ルートとして,またベトナムから西双版納タイ族自治州へと抜ける新たな迂回観光ルートとして成長しつつある。特に,紅河支流域に広く分布するハニ族の棚田景観は,自然景観と融合した民族観光資源として注目されており,大メコン経済協力圏構想の国際観光振興を見据えた地元政府の積極的な後押しのもと,ユネスコ世界遺産への登録準備を進めながら,基礎的なインフラ整備も着手され始めている。 3.昆明市や紅河ハニ族イ族自治州建水県などの旧市街地では,都市再開発と観光開発が合わさって,歴史的な町並みの創造的破壊やスペクタクル化が急速に展開している。こうした「開発」に絡む行政・開発業考・地元住民・学識経験者などは,理念として,観光資源となる歴史的町並みの保全とその持続的な利用に対する認識を共有しているものの,実際の開発現場においては,各々の利害や保全のあり方をめぐって先鋭なる対立が生じている事例も確認できた。
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