2005年8月6日〜9月14日までエチオピアに赴き、エチオピア西部及び南西部で現地調査を実施した。近年エチオピアは、恒常的な食糧不足問題の解決に向けた食糧安全保障政策を策定し、(1)近代農法の普及を奨励する、(2)再定住プログラムを主要4州で実施する、など世帯ごとの食糧自給を目標にさまざまなプログラムを同時並行的に展開しているが、これらはそれぞれにさまざまな課題を抱えている。前者に関しては、持続的開発に繋げることの困難が挙げられ、後者に関しては、先住民(ホスト・コミュニティー)との関係や医療・福祉問題などに対処しながら地域の市場・流通体系に有機的な仕方で組み込まれることの難しさが指摘されてきた(石原2005、2006)。ただ、再定住プログラムの実施により、それまで生産地として未開拓であった地域の開発が進むと同時に、地域の先住民(ホスト・コミュニティー)も(地方道の開通・整備などに伴い)広域の市場・流通体系に参加する機会を得るなど、全国的には着実に経済発展を遂げていることが検証できた。しかしながら、今般食糧安全保障政策が最低限の目標として掲げているのは世帯単位での自給である。世帯単位での食糧を安定的に確保するためには、世帯ごとにその規模に見合った生産力が必要であり、家族計画、土壌問題、土地所有の問題、が密接に関わってくる。とくにこれらの問題については、文化的価値観や信仰が絡んでくるため、近代西洋で生まれた価値観を押し付けるだけでは問題の根本的な解決にいたらない。文化人類学者は、近代化や開発を目指す政策策定者を導くことはできなくても、そうした政策に対して農民や民衆がそれまでの文化的価値観を時には改編させながらもどのように対処しているのか、について理解に努め世に問う立場にいると考える。オロモは、エチオピア人口の4割以上を占める最大民族であり、オロミア州の経済発展と政治的安定は、エチオピアの政治経済の動向を左右するといっても過言ではない。今後も、オロモ農民や民衆の日常生活を基点としながら、そこに否が応でも介入してくる国家の開発政策や、社会・文化・宗教にかかわる新しい価値観が、どのように社会・文化変化をもたらすのかについて多角的な観点から調査研究を続けたい。 石原美奈子 2005「エチオピアにおける食糧安全保障政策-人間中心アプローチに向けた諸課題」望月克哉編 『 アフリカにおける<人間の安全保障>の射程』研究会中間報告、アジア経済研究所 2006「『移動する人々』の安全保障-エチオピアの自発的再定住プログラムの事例-」望月克哉編『人間の安全保障の射程-アフリカにおける課題-』アジア経済研究所
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