研究概要 |
平成15年度においては,現在清酒製造業を営んでいる株式会社辻善兵衛商店(栃木県真岡市田町1041-1)より,近代の清酒製造業と醤油醸造業関連の史料を閲覧,撮影,複写させていただいたことが,最大の成果である。一般に清酒製造業では桶の目張りに紙を用いるため,残存史料が少ないが、この蔵元には大量の史料が残されていた。「大福帳」や「店卸帳」などの重要書類が少ないという欠点はあるものの,労働力編成や商家の組織形態を知ることのできる史料は多い。本年度は調査日の大部分をこの史料撮影に費やした。 辻善兵衛商店は,近江商人として江戸時代後期に現在地で酒造業を開業し,その後,醤油醸造業,味噌醸造業,焼酎・味醂販売業などを兼業しながら,大正〜昭和初期頃まで支配人制度を採用していた中規模商家である。これらの史料により,既存研究ではあまり触れられてこなかった清酒製造業と醤油醸造業の複合経営や,近江商人の店内という組織形態,直接酒造りに関わらなかったものの酒造家内では重要な役割を果たしていた桶職人,大工,飯炊きなどの労働実態,酒造家の年中行事などについて,新たな知見を得られる見込みである。 また,平成16年度以降に杜氏のいない酒造りを調査する前段階として,第二次大戦後の新潟県と岩手県における酒造従事者と季節労働者一般の労働力需給関係に関する資料を収集するとともに,酒造りの歴史的変化を把握するのに必要な近現代における新潟県酒造従事者組合の酒造技術講習や職業安定所による酒造家への労働力斡旋について調査した。
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