(1)本研究の課題 本研究は、中世社会における和与(和解)の意義を明らかにすることをまず、第一の目標とするものである。かような関心から研究を進めるにあたり、非常に有益な情報を与えてくれるところの、鎌倉幕府の発給した裁判判決文書(裁許状)に関する検討作業を行うこととした。その中では、鎌倉幕府の裁判において、和与(和解)が一旦成立した後にも、当該和与をめぐって紛争が再発する事案を、とくに採り上げることにした。 (2)研究の経過 (1)上記のように、和与をめぐって紛争が再発する事案に該当する史料群を収集整理した。この作業は、2002年度中に公表したところの、西村「鎌倉幕府の裁判における和与関係文書に関する若干の検討」(三・完)(『法政理論』第35巻第2号)において取りまとめた関係史料群を補うものとして位置付けられる。 (2)具体的なケースを検討していくための準備作業として、近衛家領丹波國宮田荘をめぐる紛争再発事案に関する史料群について、詳細な整理を試みた。これは、2002年度中に公にした西村『研究報告書前近代日本社会における和解の法史的意義に関する実証的研究』(非売品)において取りまとめた成果をさらに精緻化する作業として位置付けられる。この作業の中途経過については、法制史学会近畿部会第369回例会(03年7月、同志社大学)において研究報告「鎌倉幕府の裁判における和与と私和与のあいだ」を行った。また、その成果を、03年度中に刊行される『同志社法学』(296号・297号)に掲載している。 (3)上記(1)に関連して、今後、鎌倉幕府の裁判の実態について、総合的かつ実証的に研究していくための予備的作業の試みについて、その一端を、法制史学会第51回研究大会(03年10月、名城大学)におけるミニシンポジウム「IT時代の法史学」の個別研究報告「日本中世裁判手続法史研究とIT的発想の活用について」の中で明らかにした。
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