総論として、行政機関が知識を既存のものと、また情報を自由に入手できるものと前提できない条件の下では、行政の行為形式論を再構築する必要があることを論文において指摘した。従来の学説は、様々な行政の行為形式を単に並列するのが普通であった。しかしこの研究では、従来の行為形式論を、法形式(狭義の)行為形式、手続構造という3つの異なる次元から整理することが、行政活動の法的把握に資すると考えた。最後の手続構造の次元は、さらに議論と公私協働の次元に細分される。そしてこれらの次元をより精緻に分析することが、「知識の公法学」の一般的な理論構築につながる。こうした分析作業が次年度以降の課題である。 また個別分野の研究として、工業製品の安全性検査に関するドイツ法とヨーロッパ法の分析を行った。この分野は、比較的に知識を標準化しやすい分野であり、かつ大量処理を必要とするため、歴史的にも私的主体に事務を委ねる部分が多かった。そして近時の国家のスリム化と市場原理の活用論により、私的主体の業務独占が批判され、私的主体の競争を可能にする法改正が進行しつつある。この研究では、こうした現象を、法治国原理・民主主義原理の観点から検証し、両原理に適合するような制度構築のコンセプトとして、介入の分節化とプロセス化、波及的正統化責任、私行政法-中立性、事務遂行の適切性、利益の同等の表現等を指摘した。
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