平成16年度は、本研究にとって重要な法改正が行われ((1))、また最高裁の判例が現れたため((2))、これらを適時に分析することに努めた。すなわち、(1)行政事件訴訟法が改正され、義務付け訴訟が法定された。これは、原告私人が行政機関に必要な情報・知識を提示して公益を実現する途を開く訴訟制度と捉えることが可能である。そこで、義務付け訴訟において、知識・情報が円滑・適切に伝達・処理されるよう、原告私人、被告行政主体、および裁判所の適切な役割分担のモデルを提示した。特に、申請権の法定されていない場合の義務付け訴訟の訴訟要件、および申請権が法定されている場合の義務付け訴訟において併合された取消訴訟を分離して判決できる要件が、ポイントになると考え、これらの要件の解釈を示した。また、(2)規制権限の不行使の違法による国家賠償請求が、最高裁で初めて認容された(労働安全に係る筑豊じん肺訴訟、水質汚濁に係る水俣病訴訟)。筑豊じん肺訴訟では、政策決定過程と利益、技術、および学問上の知識とのインターフェイスに問題があったことが示されている。水俣病訴訟では、公共の安全を保全するための知識と情報を法制度がうまく捕捉できないという、両者のミスマッチが露呈された。そこで以上の点を判例評釈の形で指摘し、今後において規制権限不行使の違法性を判断するためのポイントを提示した。
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