今年度は、学問と政策決定とのインターフェイスを行うためにどのような法制度を設計するのが適切かを分析した。具体的には、食品、医薬品、イミシオン、原子力施設、遺伝子技術などに係るリスク評価および管理のための法制度を対象にした。また日本法と比較するために、より強くリスク行政法の特徴が法制度に現れているドイツ法およびヨーロッパ法を参照した。理論枠組として、法的決定を正当化する論証過程としての「内的手続」、法的決定を行うための多様な主体間のコミュニケーション過程としての「外的手続」、そして法的決定をどの程度安定させ、どの程度柔軟に変更するべきかという「時間」といった、3つの座標軸に沿って分析を行った。そしてこの座標軸ごとに、知識・技術の発展速度と経験則の蓄積速度との間のギャップが比較的少ない、伝統的な危険防禦に関する法制度と、経験則が十分蓄積しない間に技術の使用が進行するような、リスク行政に関する法制度とを対照させた(前者の法制度については、初年度に諸しく分析した)。リスク行政に係る法制度においては、学問と法・政治とを制度的に協調させるために、知識創造手続と衡量手続とを相対的に機能分化させるべきこと、多様なリスク特性に合わせた形態の衡量を行うべきこと、法規のほか基準や構想などの柔軟な規準を用いるべきこと、専門合議制機関においても見解の多様性を確保すべきこと、広義の手続・組織に着目した法律の留保論・行政裁量論を展開すべきこと、証明責任より「論証責任」が重要になること、リスクを伴う事業を許容する代わりに、事業者自身に継続的なモニタリング、リスク評価の更新、場合により研究を義務づけるべきことなどが重要である。以上の点を具体的に論述した。
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