わが国の所得税法は、平等原則(憲法14条)を税法領域において具体化した応能負担原則に基づいている。この応能負担原則に関連して、憲法25条において定められている生存権が重要な意義をもつ。いわゆる最低生活費は、担税力が見出されないため、これを課税対象から除外することにより、生存権を税法上も保障することこ.とになる。このような最低生活費保障を所得税法において具体化したものが、基礎控除(86条)、配偶者控除(93条)および扶養控除(84条)である。 これらの控除項目のうち、基礎控除は特に、納税義務者本人の生存を保障するものである。この基礎控除に関して、担税力がないといわれる最低生活費を課税上どのように保障するのか(所得控除か、税額控除か)、また、それはどの程度(金額)を保障しなければならないのか、という点に疑問が生じた。これらの問題について、従来は給与所得控除、配偶者控除などをあわせて算出される。いわゆる「課税最低限」に含められたかたちで、最低生活費保障が論じられてきた。そのため、これらの問題について基礎控除に限定したかたちで検討する必要があると考える。そこで所得税法における基礎控除について、どの程度を最低生活費として保障しなければならないのか、そしてそれを課税上どのように考慮するのかという点について、担税力(応能負担原則)との関係を意識しながら、検討したものである。 そして、この最低生活費を保障するための基礎控除について、担税力の指標である所得の概念との関係で、その保障段階および保障金額の基準を主張する。
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