本研究において、平成15年度は、人の移動と各国の企業年金税制のバラツキが引き起こす国際課税上の問題について、EUを中心に考察を行うことを目標とした。 具体的には、まず第一に、我が国における現行企業年金税制が、拠出時、運用時、給付時のうちいずれのタイミングでどのように課税されるかということと、国際的視点からみた問題点を明らかにした。第二に、国境を越える企業年金課税の問題は、EUでEC条約との関係で提起されてきたので、EUの報告書、シンポジウム、ECJの判決等の議論を中心に検討した。そこでは、加盟国の企業年金税制を類型化すること、人の移動と各国企業年金税制の違いにより、「二重課税」、「二重免除」が生じる原因とメカニズムを整理すること、さらに、それを調整する場合に「二重課税」は従来の国際課税上の二重課税の概念とは異なるため、その限界をおさえること、また、国内法や租税条約による調整方法と課題は何かが分析の視点であった。第三に、この問題は多国籍企業にとって重要視されているので、その解決の一助となる汎欧州年金基金の構想を瞥見した。EUでは、ECJの判決、欧州委員会、専門家によって、問題となる国内税法の歪みが取り除かれることで、問題解決にむけての議論が前進しつつある。さらに、これらの研究は、EUを中心に行ってきたが、EUのみの議論にとどまるのではなく、我が国でもこの問題に対する考え方は十分汎用性があることが確認できた。以上の研究成果は、平成15年度に論文として公表した。
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