研究最終年度である本年度において、本研究では、アメリカ合衆国の多数当事者間調整システムの基本的な仕組みを明らかにするための作業を本格化させ、同国連邦政府のトップ・レベル(=執行部レベル)で法定の調整機関として設置されたCEQ(環境諮問委員会)の活動実態に考察のフォーカスを定め、現地での資料収集、ホワイトハウスのスタッフ等へのインタビューなどを実施し、そこで獲得された知見に基づき、総合的な検討を施した。 まず、1990年代のアメリカ合衆国で協働に基づく地域生態系保全活動が隆盛をみるにあたり、CEQが連邦省庁間の調整から多数当事者間の調整へと、その機能を拡大させていたことを明らかにした。具体的には、省庁間の意見調整や多数当事者間の紛争処理を行うとともに、連邦省庁の雑多なコミュニティ支援プログラムを調整するなどの多様な調整(coordination)活動を通じて、地域生態系の保全に関与する多数の当事者(例:連邦省庁、州その他の地方政府、企業、環境保護団体、地域住民)間の協働促進を図っていたことが特定したものである。 つぎに、CEQの機能拡大の背景事情として、「協働のパラドックス」とでもいうべき問題状況が存在することがわかった。すなわち、1990年代のアメリカ合衆国では、生態系管理や流域管理等の名の下で、多数の当事者間の協働に基づく地域生態系保全活動の活性化を望む声が高まったが、その一方で、価値観を異にする当事者間紛争の可能性もまた高まりを見せたのである。 後に、協働の時代における環境行政の本質的要素の一つとして、分散する環境行政の全体像を俯瞰することの重要性が確認された。アメリカの連邦政府レベルでは、かかる役割を担う機関としてのCEQが設置されているが、わが国ではCEQに相当する機関が存在しない。このことは、わが国環境行政組織を相対化するための一つの視角となるとともに、比較環境行政組織論とでも言うべき研究領域の開拓可能性があることを示したものである。
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